■はじめに
Commerbleの橋本です。2020年12月24日に行われた災害コミュニケーションシンポジウムに「ECクラウド運営事業者が経験したコロナ禍の出来事」として登壇しました。その際の内容を書き起こした内容になります。
EC事業者から見て、世の中にどのような変化があって、今後どう考え課題を解決していくか、そのヒントをお話できればと思います。
なお、災害コミュニケーションシンポジウムについては、こちらを御覧ください。
第10回災害コミュニケーションシンポジウム
1.ECについて
■目指す世界
我々CommerbleはECシステム提供事業者として
- 必要な人が
- 必要な時に
- 必要なものを
- 必要な方法で買い、
- 望んだ場所で受け取ることが出来る
災害時はこの限りではない部分が出てきますが、関連する人々の安全が保証された中で役割を果たせればと考えています。
■ECは様々な連携で成り立っている
連携先、基幹業務、ECサイト、物流をここでは挙げていますが、全体像からすると一部でしかありません。ECは単にカートシステムではありません。下図に記載されている連携に限らず、色々なシステムとその連携によって成り立っています。
システムという目線で見ても
- 導線=マーケティングツール、メルマガ、コンテンツマーケティング(読み物)
- ECサイト=モールやアプリ、決済、レコメンドや検索
- コールセンターや会員サポート、データ分析、BO業務(受発注管理)
- 越境、会計
- 外部リソースとしての配送会社、卸・メーカー、工場
これらシステムは決済など社外サービスとして提供されてもいます。
例えば、Commerbleの連携実績があるサービスという視点で見ても様々なものがあります。
- 支払い系、(クレカ、後払い、**ペイ、)
- POS系
- ID系=Yahoo,FB,Google,Twitter,LINE
- CICDのツール
- 情報連携ツール
- モール自社ECをまとめて管理する受注管理ツール
- WMS
- 多言語、越境
- 検索システム(数十万点)
- 広告
- CRM=顧客管理
他にも業界には多種多様なサービスがあります。ECCLABが作成したeコマース業界カオスマップを見てみましょう。
【保存版】eコマース業界カオスマップ2016-総集編
ECは自社ですべてのシステムを作ることは難しく、これらのサービスを組み合わせて作り上げます。
このように連係するサービスの組み合わせは無限に近くあります。さらに、オンラインのみでは成立せず、実際に商品を作り、出荷し、検品し、倉庫に収め、受注伝票をもとにピッキングし、出荷し、配送し、実際に自宅まで届ける物理的に働く方々がいます。
ECとは色々なサービスと人がつながった生きているサービスといえるでしょう。
■ECの背景で働く人達
- 店舗
- 物流、倉庫管理、拠点間の配送業者
- 工場の生産設備
- 荷物を直接運んでくれる配送業者
- 高速道路とか国道ですれ違うトラック
他に見えないところで、
- 企画商品開発
- 商品の調達を行なっている人
- 商品開発企画、経営
■コロナ禍での雇用増
配送、デリバリーに関しては、95.6%増、トラックドライバーに関しても48.5%増、倉庫に関しては30.7%増 とエッセンシャルワーカーの雇用増がありました。
出典:Indeedエッセンシャルワーカーの雇用増
■連携先へ思いやりを
このようにECは色々なサービス業態、それに従事する人々が連携しあって動いている巨大な生態系です。
色んなものが繋がっているので、皆思いやりをもって連携しましょう。
相手のビジネスや仕様、働く人の生活を思いやった連携をしましょう。
2.コロナ禍での出来事
■2020/4/15〜4/24がピークの商品
下のグラフは、何の商品の通販販売推移でしょうか?
これは、マスクの販売推移になります。一時期手に入らなかった方も多いでしょう。
下図はマスクの検索キーワードです。
■マスク販売時の障害
ここでマスク販売時にどのような障害があったかを共有します。
オムニチャネルという店舗の顧客とオンラインの顧客を統合する施策が流行った兼ね合いで実店舗を持っているEC事業者はPOSと連携する機会が多いです。
マスクを販売していた事例では、テナント企業はECのみではなく物理店舗を構えているため、ログイン時に保有するポイントや住所などPOSから会員情報を取得する仕様になっていました。
- マスクを求めるユーザーが大挙したため、ログイン時にPOSから会員情報を取得する際にPOSサーバーが性能不足になりました。
- POSサーバーの処理待ちでECサイト自体もダウンしてしまいました。
同ECサイトは、通常の100倍を超えるアクセスが来た経験がないのと、最大値の想定を低く構えているところがあり、このようなトラブルが起きました。2020年現在、POSがまだオンプレで動いているものも多く、この部分の性能を急に高めると言ったことが出来ません。そして、次の段階としてPOSサーバーの処理待ちでECサイト自体もアクセスをさばききれなくなり、ダウンすることになります。
本来のCommerbleのパフォーマンスだと、
- PV時間100万(LINEのフォロワーから、チラシから)
- 2時間で10000受注
- 1時間7000受注(季節限定商品など)
- 1分500受注
このようにECサイトにおいて、連携は大事であり、相手を思いやった実装というのは非常に重要になります。
今回は、迅速な対応が求められましたので、暫定的に以下のような対応を行いました。
POSサーバーの処理待ち時間を数十秒であったのを数秒にして、POSサーバーの応答がなければ切るという形にしました。
そうすると、運よく応答が帰ってきたリクエストのユーザーはログインすることが出来、購入フローに入ることが出来ます。成功したユーザーから徐々に購入者が出てくるような形です。ECサイト側も処理待ちをしなくて良いので、負荷が減ります。
■決済処理の問題
他にも、エラーが出るのはECサイトのフロント画面に限ったことではない場合があります。
例えば、クレジットカードの売上処理を代行してくれる決済代行業者には同時接続制限があります。一番最小の契約だと「秒間1〜3トランザクション」というような契約になっているサイトもあります。この場合、決済のリクエストが集中してスパイクすると、エラーが大量に出ます。
制限緩和方法ですが、決済代行業者に相談して数営業日で制限緩和してもらうというような事が多いでしょう。
この場合の解決方法としては以下のような方法もあります。
決済=直接決済代行業者のAPIに接続するのではなく、処理を非同期にして順番に対応する方法があります。
システム的に言うとキューと呼ばれる部分に、決済の処理要求をためて処理可能な合間を取って順に実行していきます。これだとエラーが出ても再実行できる上に、同時接続数を無理なく制御できるので、順々に決済を実行することが出来ます。
このような対応方法を非同期処理というような名前で呼びます。
■同期と非同期
◇同期すべき処理
では、処理を本当に同期する必要があるものと、非同期で良いものは何でしょうか?
本当に同期する必要があるものは、在庫です。なぜかというと購入のトランザクションとリアルタイムに同期しないと、先に在庫の引き当てのみが発生してしまい、過売になるからです。過売とは、EC事業者が実際に保有する在庫より売れてしまう事で、発生するとメーカーに追加で発注したり、メーカー側に在庫がない場合は、購入者に謝罪しなくてはいけないなど現場の負担となる業務が多数発生します。
◇非同期で良い処理
一方,非同期で良いものには、先ほど説明したように決済やポイントの処理があります。決済やポイントはリアルタイムではなくても最終的に整合性が合えばよいのです。実際にAmazonはクレジットカードの決済処理に関しては、このような非同期の処理になっています。クレジットカードに何らかの問題が合った場合、Amazonは購入後、メールでカード番号を入れ直すように通知してきます。
Amazonのように、みんな非同期決済にすれば良いかというとそう簡単な話でもありません。
実はほとんどのECシステムは非同期になっていません。
非同期決済に対応していない要因として、購入後の変更とかキャンセル処理との兼ね合いがシステム的に複雑になり、例外対応の工数ががかさみ、業務フローも複雑になる部分があるからです。加えてこのような非同期処理が本当に必要なテナントが相対的に少ないところなどがあります。大半のテナントはこのようにスパイクするような売れ方をしないことも要因の一つです。
その他根本的なとしては、決済代行の先にあるその先のカードネット自体の処理量問題があります。
また決済代行側でも能力強化(テナント単位で同時接続数を制限せず、決済代行全体をプールにして調整する)事が求められますが、対応できている事業者は現状多くありません。ただパフォーマンスに特化したクラウドや機能、実装方法も普及しておりいずれ恒久的な対応も近いと思われます。
非同期決済と在庫の話のおまけです。
非同期での決済に失敗すると、一度仮で引き当てた在庫を戻す必要が出てきます。完売後15分後とかに人気ゲーム機の在庫が一瞬戻っていたりするのはそういうケースですので、ご参考にしていただければと思います。
3.ECのマクロ情報
EC業界をマクロに見た場合の話をしたいと思います。■EC化率の話
2019年時点でのEC化率ですが、19.3兆円で6.7%と言われています。
出典:経済産業省
電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました
コロナ禍でどの程度、EC化率は伸びるでしょうか?
MMD研究所調べだと利用頻度増は21.6%とそこまで劇的な変化ではありませんでした。(海外は劇的に変化した国もあったようです)
出典:MMD研究所
緊急事態宣言発令以降の買い物の変化は「実店舗への回数を減らした」が最多
出典:ECCLAB
コロナ禍でECサイト利用開始したユーザーは4.8%、利用頻度が上がったのは21.3%
■コロナ禍でEC事業者はどう変わったか?
出典:eltexDCEC・通販自主調査
こちらは、株式会社エルテックスさんというところが調べたデータですが、コロナ禍においても売上の拡大、売れる商品、安全なシステムとい うところが優先課題とされていて、コロナの感染対策を重要課題と答えた事業者が少ないことを示しているデータです。
EC業界はどうしても売ることが最優先になってしまうという点も大きい要因となっているでしょう。
■Commerbleのデータ
自粛期間の前年同期比250%~270%となりました。一部のテナントが劇的に、他のテナントもそれなりに売上が伸びたことが大きいです。 全体的には、ほぼすべてのテナントが伸びました。
コロナ禍に最も売上が伸びたテナントは1000%近くの伸び率となりました。
主要因はお店が閉まっているからECで買うしかなかったのもきっかけです。コスメなどは、在宅勤務ではメイクしなくなるので苦戦と言われていますが、体のメンテナンスだったり、自宅で使うリラクゼーション系のコスメは爆伸びとなっています。
10倍近く受注数が伸びると、出荷しきれなくなります。倉庫の人手を倍にしてもらうなど人海戦術の対応も行いますが、システム関連系や業務の見直しなど多面的に対応しないと、解決しきれません。
受注後の業務システムの最適化は、実はコロナ禍においては最も重要な一つのテーマと言えるでしょう。
人手を増やさずに、出荷量を増やす、このような取り組みがオンライン(システムによる自動化)とオフライン(現場業務の改善)どちらも必要となっています。
■動向
◇女性
- お店に行かないが欲しい=そのスタイルの継続=自宅で使う嗜好品は売上が伸びる
- ギフト(子供向け)等も伸びる
◇男性
- バイク用品、DIY、アウトドア、デジコンが伸びる
- フィットネス市場が伸びる
◇影響を受けにくかったもの
- 建材
◇6,7,8月の巻き返しが大きかったもの
- スポーツ系、アパレル系は自粛期間の受注件数は落ち込みましたが、解除後は大幅に巻き返しました。かつ前年度を上回ったテナントが大半でした。
■配送遅延、物流不安
配送遅延の検索が、自粛期間に急上昇しています。物流不安から予定やイベントより前もって買う人が増えているようです。
出典:ECCLAB
この半年で起こったショッピングトレンドの変化と、これからをデータから読み解く
■買い占めと対策
◇店舗
- 入場制限、一人あたりの点数制限
- 行列は発生する。店舗では制限しきれない
- ECが使えない人は、店頭に並ぶことになる
◇抽選販売の普及
- ゲーム需要で業界としては抽選販売が増えてきている
- 極力平等に渡るようにする=不毛な店頭行列をなくすことが出来る
- 転売ヤーの購入自動スクリプトみたいなのもあるが、どう防ぐか
例)リキャプチャ=信号機が全然どれかわからない、画面無し型
■転売禁止
2019年6月に施行されたチケット不正転売禁止法は、チケットの不正転売を防止し、チケットの適正な流通を守ろうとしています。
転売が禁止されているものには、
- チケット(定価以下でのやりとりはOK)
- メーカーが転売を禁止しているもの
- お酒
- 転売目的の中古品(古物商許可がない方)
出典:しせいノート
転売は違法なの? 転売の基本ルールをわかりやすく解説!
■受け取り方法の変化
◇店頭受取の需要=BOPIS=Buy Online Pickup In Store- 物流不安がある海外だと特に強い、日本でも利用者が増えている
- カーブサイドピックアップ(オンラインで注文した商品を駐車場で受け取る)
- コロナ禍で店頭にいる時間を短くするニーズもある
- 日用品を買う必要はどうしてもあるので、スーパー、モールは強い
- リモートワークでだいたい受け取りできるなど※受け取り率の改善。
- 配送日の概念を薄めていくかもしれない。
■まとめ
ECシステム提供事業者として色々なシステムや人と連携し、
- 必要な人が
- 必要な時に
- 必要なものを
- 必要な方法で買い、
- 望んだ場所で受け取ることが出来る
でも連携の世界は、まだ泥臭いシステムトラブル等があり、業界動向も扱う商品によって大きく変化しています。 根幹にあるのは、連係するサービスや人への思いやりで、良い連携を作っていくことが重要です。